河野乾魚店
浜田港 競り物語
浜田漁港には多くの干物加工業者や大きな鮮魚卸が集まります。
通常、1日漁で港に帰る小さな船は、魚を締めることなく持ち帰ります。そのために、朝揚げた魚は、夕方には鮮度が落ちてしまうことになります。
見た目には、鮮度がよく見えても魚体の温度が上がっていて、後から氷で冷やしても、なかなか魚自体が冷えず、鮮度落ちが早いのです。(腹の部分が、すぐに切れてきます)地元の漁師さんなど仲間内では「これは、手入れが悪いけ~魚が燃えとるんじゃ~」と表現します。
その点、浜田の船は、即氷で締めますので魚の鮮度を落とす事なく持ち帰れますし、ある程度の日数の航海が可能になります。網からあがったら、すぐに適切な処置をするとしないのとでは、魚の鮮度は全く違ってきます。
また魚のサイズ(大きさ)別に選別しておく、鮮度等によってA級・B級品にきちんと分けてあるのも浜田漁港の特徴です。(当店がネットで扱う干物は、すべてA級品の魚で作ったものです)浜田漁港に多くの干物加工業者や大きな鮮魚卸が集まる理由でもあります。
よく訳あり商品などと低価格で売られる干物がありますが、おそらく鮮魚の段階でも違いがあると思われます。加工の途中で、頭を切り落としたり、傷がついたりということは当店では考えられません。丁寧に魚を扱うと、そんなことは、ほとんどに起こらないのです。
工場長の朝
未明の2時〜3時から、作業が始まります。入港した漁船の船員さんが、ダンブルから魚箱に入った魚達を並べはじめます。魚の種類・大きさによって大まかに分けられた魚をさらにきちんと分けていきます。
魚の種類・大きさによって、大まかに分けられた魚をさらにきちんと分けていきます。自分の船で水揚げされた魚を高値で競り落としてもらえるよう整えていきます。この作業に1~2時間以上かけます。
朝の5時前、工場長が家を出る時間です。車で10分弱かけて浜田漁港へ向かいます。まず港に着いて工場長のすることは、浜田魚港 JFしまねの事務所2階で、「どの船が」「どの魚を」「どのサイズで」「どのくらいの量、水揚げされたか?」またその船の前回入港時の魚の種類、サイズ別の競り落とし、最高値・最安値はどのくらいだったか?を調べておきます。
競りの始まり
いよいよこれからが工場長の朝の大きな仕事が始まることになります。
どの魚がいいか、鮮度・大きさ、どのくらいの競値をだせば、競り落とすことができるか、その箱の入り(量)はどうか、目当ての魚をどの価格で競るか、魚を見て回りながら決めていきます。行ったり来たり1キロ以上の距離歩き回ります。
競りはまず、底曳き船から始まります。(浜田漁港4号市場)(主にカレイ類・のどぐろなど、底に生息している魚が中心です)浜田漁港の競りの仕方は、懐競り(ふところぜり)です。一発競りで、競りあがって価格を決めるのではありません。
競り落とす人は(買い手)、競る人にだけ解るように上着で隠しながら、独特の指使いで競り値を示します(瞬時の速さです)。次々と示していき、一番高値の人が競り落とします。競り落とした魚には、譜票(ふだ)を貼り(屋号が入っています。当店は「カネカワ」です)その譜票を見て運送屋さんが、加工場まで運んでくれます。
この底曳き船の競が終わったら、一本釣りの競(6号市場)があります。 (釣り物の甘鯛等はここで競り落とします)ここで工場長は一旦自社工場に戻ります。運送屋さんが、競り落とした魚を間違いなく運んできたか、また、その日の仕事の段取りをするためです。時間に余裕があれば、すぐに選別に入ります。
7時半 巻き網船(アジやサバなど)の競りのため、再び浜田魚港へ。(5号市場)ここでまた競りがおこなわれます。浜田漁港は、4~7号市場まであります。(1~3号は、旧市場で現在はありません)工場長が唯一参加しない7号市場は、スケール売りをする市場です。選別していない魚を、トン単位でスケールごと競り落とします。
工場長が語る「競りの極意」
「毎日、必ず市場に行く。自分の手で開くことで、競り落とした魚がよいものかどうか確認する。そして、ほしい魚だったら、思い切って値をつける。」
競る人は、みなさんプロ。漁獲量の多い魚は競り値に大きな差は出ません。僅差で競り落とせた時、そしてその魚が思惑通りの良いものだった時が一番の醍醐味です。(逆に僅差で落とせなかった時には、悔しい瞬間です)しかし「のどぐろ」などの漁獲量が少ない魚の競りは、大きな変動があり大変難しくなっています。
特に、時化が続くと全体の漁獲量が減りますので鮮魚屋さんが、高値を出してきます。そんな時は、要注意です。浜田漁港の鮮魚屋さんは、地元に卸す業者さんだけでなく、都会に魚を卸す大手の鮮魚屋さんも多いので、価格・量ともある程度を確保します。また加工業者(当店のような干物業者や蒲鉾業者など)も多く残っています。(全国では、少なくなってきています)
ですので、競りは[加工業者] 対 [鮮魚業者]の戦いです。決して干物用の魚があるのではなく、鮮魚屋さんと対等に競っているのです。
皆さまに感謝
競り子さんの大きな声と白い息、競りごとに起こるどよめきの声。張り詰めた近寄りがたい空間です。秋から冬の寒い時期、競りから帰ってきた工場長の分厚いコートのポケットの両側には、すっかり冷たくなった缶コーヒーが2本。熱い缶コーヒーがカイロがわりです。
こうして鮮魚にも引けを取らない当店の干物が、皆さまの食卓に並んでいきます。
お客さまに「ありがとうございます」。
工場長(家では「お父さん」と呼んでますが)にも「ありがとう。」
文・写真:[お客さま担当] 河野 むつこ